「 食堂 」。
いい響きですよね。
飯屋でもなく、小料理屋でもなく、食堂。
「 食堂 」ってつくだけでなんだか明るい雰囲気のある、いい感じのお店に思えてしまうから不思議なものです。
でも、お酒とか売れなさそうですよね。
やっぱり食事がメインで、それに合うお酒を少しだけ出してくれるお店って感じが出て、やっぱり小生、食堂って好きだなぁ。
さて、今回ご紹介する小説は『 食堂かたつむり 』です。
”深夜”でもなく”かもめ”でもなく、かたつむりの方ですよ。
[ 食堂かたつむり について ]

さて、さて今回紹介する『 食堂かたつむり 』は大変暖かい小説でございます。
詳しい内容はあらすじで語りますが、柴咲コウ主演で映画化もされました。
予告編からして、どーも音楽と内容がマッチしていない感じの映画なのが残念ですが、私は見ていないので興味がある方はどうぞ。
少なくともアマゾンレビューだと酷評の嵐でした……。
人の評価なんてあてにならないもんだし、無責任にあれやこれや言えるので、別に小生はどうもこうも思いませんでしたが、個人的に想像していたキャストではなかったので、ネットで『 食堂かたつむり 』を検索した後にアマゾンを見て、そっ閉じでした。
[ 3行でわかる 食堂かたつむり ]
彼氏にふられ、家財道具をすべて盗まれた。残されたのは床だけ。ショックのあまり声を失い、生まれ故郷に戻った彼女は食堂かたつむりを開くことに。街の人から不思議な力があるお店と言われる店になったけれど……?命と食事の大切さが分かるお話です。
3行ということでかなり端折ってはいますが、なんとかまとまりました。
うん、まとまった( 自画自賛 )。
こういう小説を紹介するときに悩むんですけど、ネタバレは極力さけたいんですよね!
やっぱり知って読んだのと、知らなくって読んだのではかなり差があるじゃないですか。
まぁ、でも大体はこんな感じの物語です。
食堂ということで、全編にわたってお料理が出てくる小説なので
ダイエット中の人は注意して読むように!
[ ちゃんとした あらすじ ]
トルコ料理店でアルバイトをしていた私が家に帰ると、部屋の中には文字通り何もなかった。
一生懸命お金を貯めてかった調理道具も、死んだおばあちゃんと一緒に漬けた梅干しも、すべて一緒に住んでいたインド人の彼にキレイさっぱり持って行かれてしまった。
ショックのせいか私は声がでなくなってしまった。
私は声も失ったのだ。
でも、たった一つだけ残ったものがあった。
それはおばあちゃんの形見の、ぬか床。
私は、何もない部屋を後にして、ぬか床を抱えたまま高速バスに飛び乗って、東京に出てから今まで一度も帰っていない実家の街に帰ることにした。
その街は、私にとって大好きな街だったけれど、大嫌いだったおかんがいたから帰ってこなかった。
昔住み慣れた実家に帰って、おかんが隠しているであろうお金の隠し場所を漁っていると大きなブタが襲いかかって来て、会いたくなかったおかんも出てきた。
私はなんとかおかんに住ませてもらうように、お願いして無事住むことはできるようになったのたけれど生活をするにはお金がかかる。
どうしよう……そうだ、だったらここで食堂を開こう!
だって私はインド人の彼とお店を開くために今まで頑張って来たんだもの!
小さいころからお世話になった近所のオジサンの熊さんに手伝ってもらって出来た手作りのお店「 食堂かたつむり 」は自然のめぐみをお腹いっぱい味わえるステキなお店。
しかも、そのお店の料理を食べると”奇跡が起こる”らしい。
食堂かたつむりで起こる、優しい奇跡の数々。
あなたも、食堂かたつむりで食事をしてみませんか?
当店は完全予約制で、シェフは私だけでウェイターもいませんし、しゃべれないけれど、アナタの身体を元気にする料理を振る舞います。
さあ、アナタが食べたいものは何ですか?
[ 作品感想 ]
感動しました。
良かったです、一気に読み終わってしまいました。
うん、読後感がさらに良い。
なんかお腹いっぱい身体に良い食事をしたって気分にしてくれます。そんな小説です。
登場する料理はどれも美味しそうだし、料理の手順やその食材の温度まで感じさせる筆力は、純粋に上手だと思いました。
いい意味で女性らしい小説でしたね。
可愛らしいというよりは、芯の通ったしっかりとした女性って感じの癖があるけどいい女な小説でしたね~。
いや~それにしても、どこからこんなにも美味しそうな料理のレシピを引っ張ってくるのでしょうか。
ザクロカレーとかりんごのぬか漬けとか、マタタビ酒をつかったカクテルとか、ジュテームスープとか。
どれも美味しそうだし、身体に良さそうだし、心まで暖かくなるようなお料理ばかりでした、絵は思い浮かばないけれど。
それと最後の豚さんとのお別れが個人的に「 え~~~~~! 」と思ってしまいましたが、命を食べるってこういうことだよなぁと考えさせられました。
[ グッときた一言 ]
私にとって、料理とは祈りそのものだ。
おかんと修一さんと の永遠なる愛への祈りであり、身体を捧げてくれたエルメスへの感謝の祈りであり、そして、料理をつくることの幸せを恵んでくれた料理の神様への祈りでもあった。
私はこの時ほど無上の喜びを感じたことはない。
ラストシーンへ向かう重要な場面です。
ネタバレになるので、あまり多くは語りませんが良いシーンなんですよ。
出てくる料理のドレも美味しそうだし、食べたくなるし( 相変わらずどんな料理かはわからないけれど )。
このころは、大嫌いだったおかんとの関係も少しずつ良くなっているんですが、実はおかんが……!
うん、コレ以上はネタバレになるので、言えませんがやっぱり良い小説でした。
大ドンデン返しこそありませんが、最後のシーンはカタルシスたっぷりで良かったなぁ。
[ あなたも読んでみませんか? ]
キレイな自然を感じる美しい小説でした。
出してる料理は”食堂”って気がしませんでしたが、全体に漂う優しい空気感は「 バル 」とか「 レストラン 」とかじゃなく、やっぱり食堂ですね。
最後はとても切なくって、でも元気がでるラストでした。
私たちは生きているものを食べて生きているんですよね、ってことを再確認させてもらいました。
でも、経営とか考えたら小説のように上手く行くわけないけどね……あぁ世知辛い、世知辛い。
[ 作者について ]
小川 糸(おがわ いと)
1999年に「 密葬とカレー 」でデビュー。
2004年に浜田省吾と水谷公生とともに音楽ユニット「Fairlife」の結成に参加。「春嵐」名義で作詞を手掛ける。
代表作に絵本の『 ちょうちょ 』『 食堂かたつむり 』『 ファミリーツリー 』などがある。